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土壁っていろんな表現ができるんだ
「でも左官の仕事だけはわからなかった。職人さんに聞いても、「素人にはできないよ。」
って、最初から話しにならない。とりあえず漆喰に似たようなものをローラーで塗ったりコテ
で塗ったりと試行錯誤していたんだけど、土壁塗りたいとか、土間のたたきを土のたたきで
やりたいとか、そういう思いはずっと持ち続けていたら、あるとき仕事を手伝ってくれていた
設計士が「それなら面白い左官屋教えてやるよ」って、それが榎本新吉って人で、気難しい
親父だって聞いていたから、どんなに怖い親父かと思って行って。確かなに気難しい感じは
したけど、聞く話聞く話目からウロコなんだよね。基本的にわかったことは左官はすごく単
純なんだと、材料そのものは」「親方から教えてもらったことは、ようするにね、丸まってる砂
がある、角張ってる砂がある。そしていろんな色がある。できたときに表情が違う。土壁って
いろんな表現ができるんだ。その素材を自分が知ったことによっていろんな土壁の可能性が
出てきた。それからある意味左官にはまっちゃったんだよね。」
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女房は苦しい一年間でした
「その親方に出会って、自然素材だけで新建材使わないぞって決めちゃったら仕事がないの(笑)
あるいはあえてお客さんが来ても断っちゃうの(笑)「お金ないから合板でもいいわ。」ってお客さん
が言うから他の業者に紹介してあげたり(笑)「俺はそんな仕事(新建材を使うような)しない!」お
かげさまで女房は苦しい一年間でした。女房はうちの知り合いの会社で仕事していから、それが
一家の収入源ですよ。(笑)」
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本来素材を手で触れて生かすのが職人
「でもその一年間その親方に勉強させてもらったのね、そうするとだんだん解ってきたから自分でも
材料こねて、これは面白いから知り合いの人がリフォームするときに「ぜひ土壁ぬりましょうよ」って
(笑)本当に原価でいいですからって。左官屋さんに知って欲しいし、経験して欲しい。左官屋自体
がそういうことを忘れているし、新しい左官材料を使いなれてしまって、メーカーさんで作られた材料
を使い慣れてしまって、自分で材料作って塗るってことがほとんどなくなってしまってるんだよね。だ
から知ってるようで、知らない。職人は本来素材を手で触れて素材の持つものを生かすのが職人だ
と。土壁の良さを知ってもらおうと思って。」
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小田原の名店「菜の花」社長との出会いが転機に
「お客さんを集めて左官教室を開いたり、あちこち吹聴してまわっていったら、小田原の「菜の花」っ
て菓子屋さんがその社長が一番初めに乗っかってくれて、「じゃあ、お前塗っていいよ」って。小田
原の駅前のお店が一番最初だったんだけど。」そのときに親方(榎本新吉)呼んできて、菜の花の社
長もすっかり榎本ファンになってしまったから、まあ、そういうことでそこで現場やったことで榎本さんに
もちょっと認められたかな(笑)「こいつは左官屋じゃないけど、左官屋の現場を作ってくれる奴だ」って」
自分のやりたいことを貫く。それは容易なことではありません。そんな岩越さんを支えたのは、苦労を
共にした奥様であり、岩越さんの熱心な話を聞いてくれた建築家の人たち、そして小田原を代表する
和菓子屋菜の花のご主人でした。
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つづく
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